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更新日:2015年8月17日

自然からの教訓(2015年7月)

早いもので学生たちは夏休みを迎えました。長期の休みを心待ちにしていた子どもたちは、これからどんな生活をするのでしょう。旅行などでアウトドア活動をされるご家族も多いことかと思います。昨年8月は降雨が多く晴天が極端に少なかったため、私は安全を考えて夏登山を断念した記憶があります。昨夏、私と同様に夏のアウトドア活動ができない無念を嘆いた方も多かったことでしょう。今年こそは晴天の休みを利用して、有意義な山歩きをしたいと祈る気持ちでいます。

山に登って何が楽しいのかと不思議に思う方も多いことでしょうが、私はリフレッシュと合わせて、大自然から貴重な「教訓」を得るつもりで山に向かいます。「自然からどんな教訓?」と不思議に感じる方は多いのかも知れません。大自然の中で感じたことや考えたことの中には、日常生活に生かせるような教訓めいた気づきが案外あるものです。私が登山から得た貴重な教訓を、思いつくままにまとめてみました。日常生活や、いざという時の参考にでもなればと思います。(写真は一般的な景色の紹介で、本文との関係はありません)

南岳への最後の急登

【南岳への最後の急登】

教訓1 山から危機管理を学ぶ

私が登山を本格的に始めたのは、平成7年、阪神淡路大震災被災地へのボランティア活動がきっかけです。発災1か月後、安城青年会議所を代表して西宮市へ向かう際、都市インフラが復旧されていないので、自分の寝食は自分でできる装備で出かけることを条件とされました。そこで購入したのが携帯ガスコンロや寝袋でした。つまり登山道具は、都市インフラのない限界状況で生きてゆくのに不可欠な最低限の装備でもあったのです。

また被災地の避難所で不思議な光景を目にしました。学校体育館へ避難している人たちはお年寄りばかりで、若者や子どもたちが見当たらなかったのです。避難者のお一人にお尋ねしますと、「若い人たちは『暗闇が怖い』とか『水洗トイレが使えない』、また『毎日お風呂に入れない』を理由に、親戚などを頼りに被災地外に脱出してしまった」との答えが返って来ました。快適便利な都市環境で育った若者たちには、都市インフラが破壊された社会で生きる能力が備わっていなかったのです。

クリンソウの群生地

【クリンソウの群生地】

「災害時、極限状況でリーダーシップを発揮するためには、都市インフラのない環境での生活を体験しておくことが重要ではないか」ということを悟り、そこから私の本格登山が始まりました。安城市では小学5年と中学1年で、それぞれ数日間の野外教室に出かけます。勉強時間が減少することを心配される保護者もおられますが、近い将来、南海トラフ巨大地震に直面するであろう彼らの境遇を思えば、野外教室は人生の宝物のような体験になるものと私は考えています。

教訓2 道に迷ったら引き返す

山の中ではしばしば道を間違えることがあります。長時間の歩行で疲れ果てている時などは、そのまま下った方が楽に思えてならないものですが、誤った道を下り崖や川に転落して死亡する事例が多いようです。進んだ道を間違えた時、まずは分岐点まで引き返すことは大切な登山の鉄則です。私は人生も同様と考えています。自分の生き方に迷いが生じた場合、その時点でもう一度原点に立ち返り、これまでの人生の選択そのものを考え直してみることが必要になると思います。迷ったまま強引に進んでゆくことで、再び良好な道に戻れなくなるケースがあるような気がします。

春の上高地

【春の上高地】

教訓3 危機は山場の後に待つ

北アルプス穂高岳から槍ヶ岳にかけて、「大キレット」と呼ばれる滑落事故が多発する危険な個所があります。U字状の尾根の刃渡りをするような恐ろしい場所で、私も命がけで渡ったことがあります。その脇に建つ山小屋のおばちゃんのお話では、「人が死ぬのは恐ろしい危険個所じゃないよ。難所を渡り終えて気が緩み、よろけた瞬間あっけなく滑落するケースが多いんだ」とのことでした。険しい山では、足元がふらついただけで生死にかかわる重大事故につながります。私自身もこれまでの登山で、自らの死を意識したような転倒は、険しい登りを終えて下りに差し掛かったような地点ばかりです。ただ、これは山の世界だけではなく日常の仕事などでも同様で、大きな困難を乗り越えようと無我夢中の時は驚異的な能力を引き出せるものですが、山場を越えて安堵感が漂った瞬間、それまでの疲れで大きなミスを起こすことがあるように思われます。山は帰宅するまでが登山、仕事も締めくくるまでが仕事なのです。

教訓4 好事魔多し

天気は最高、体調も万全、さらに体力・気力ともに充実していて、軽快に通い慣れた山道を歩いていたはずなのに、気がつくと道に迷っていたという経験があります。不思議なことにふつうは見落とすことのあり得ない道標を、その時はなぜか見落としてしまい、軽率な自己判断を信じて颯爽と進んだことでとんでもない場所に迷い込んでしまったのです。見知らぬ場所に一人で迷い込み不安に包まれると、時折談笑するかのような人の声がかすかに聞こえることがあります。「この向こうに誰かいるのか?」と、その声を頼りに進むとますます迷いを深めます。ふと我に返った時、不気味な薄暗い空間に1人たたずむ自分に気づき、ぞっと鳥肌が立った経験があります。未知の世界では不安心理が増幅され、鳥や風、せせらぎなど自然のささやきが人間の声のように錯覚され、幻聴が起きるのではないかと考えます。そのまま幻聴を追ってしまい、さらに森の奥深くに吸い込まれて帰らぬ人になることもあるのだろうと感じました。幽霊話ではありませんが、大自然の中では狐につままれたような出来事は起こり得るものです。後で落ち着いて振り返ると、本当につまらない単純な判断ミスがきっかけだったことに気づき、強い自己嫌悪に陥ってしまいます。こんな単純なルートを間違えるはずがないという思い込みが、大変な誤りにつながることがあります。当たり前と思い込んでいることも、今一度確認して進む慎重さの必要性を感じます。

北八ヶ岳の原生林

【北八ヶ岳の原生林】

教訓5 危機での平常心

知らない場所に迷い込む、または大きな獣に遭遇する。そんな時どうしたらよいのか分からなくなるものですが、まず気持ちを落ち着けることが重要です。気が動転している時に落ち着くことは難しいのですが、私は意識して「立ち止まり深呼吸をする」、次に「自ら置かれている状況を理解する」、そして「最も有効な解決策を考える」の順に頭の整理をしてゆきます。可能であれば水筒の水を飲んだり飴をなめたりし、一息入れて危機的な状況から抜け出す方法を見出すこととしてきました。ちなみに私はクマ除けの鈴をつけていますので、クマに遭遇したことはありませんが、大きなカモシカが前方にぬっと現われ、心臓が止まりそうになったことがあります。カモシカは鈍重な獣のようで、私が大きな声を出しても、ピクリともせずにじっとこちらをにらみ続けます。彼らなりの威嚇なのでしょうか。森の中で直立不動のカモシカににらまれ続けられること自体とても不気味でしたが、一対一で長時間のにらみ合いの後、急にぷいっと立ち去ってしまうことが多く、今もってカモシカの気持ちは理解できません。

蝶が岳の展望を楽しむ

【蝶が岳の展望を楽しむ】

教訓6 備えあれば憂いなし

いざという時、目的地にたどり着けねば野宿するしかありません。そのための最低限の装備は不可欠です。また道具だけではなく体力や時間の備え、つまり余力や余裕を持っておく必要があります。休日に自転車に乗ったり、プールで泳いだりしているのは、山の中で体力がなくなり山から帰って来られないような事態を回避するためです。また時間に関してはかなり早めの出発を心がけ、目的地には午後3時までに着くような余裕を持ちます。夕暮れにもかかわらず目的地に着けない場合、気持ちがあせることで迷いを深めてしまう可能性があります。仕事に関しても、長期計画を遂行してゆくためには十分な体力・気力が必要でしょう。また思いがけないミスが起きても一定の時間の余裕さえあれば、ミス以前の状態からやり直すチャンスは残されています。一か八かの余裕のない挑戦は、登山でも仕事でも一歩誤れば致命的な結果につながります。

梅雨が明ければいよいよ夏本番です。夏の過ごし方は人それぞれでしょうが、私は上記のような教訓を胸に刻み、大自然に溶け込んで日常生活を振り返る時間を持つことを楽しみにしています。人為的に制御された快適・便利な近代文明から離れることで、普段気づかなかったようなことに気づけ、また普段見えなかったようなものが見える瞬間があるのです。

いろいろ書きましたが、大自然は怖い面ばかりではありません。雄大な大自然の素顔に、安全に出会うための心構えをまとめたつもりです。日々時間や仕事に追われて自らの生活を顧みられない人にこそ、自らの日常を客観視する時間の確保が必要だと考えます。安全で有意義なリフレッシュとなる夏休みにしましょう。

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