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更新日:2013年6月20日

深読み「二ひきのかえる」

新美南吉の童話を絵本にする安城市主催の新美南吉絵本大賞で、川崎市の渡辺さんが描いた「二ひきのかえる」が大賞に選ばれました。

大賞作品「二ひきのかえる」

【大賞作品「二ひきのかえる」】

このお話のストーリーは、概ね以下の通りです。

「体の色が黄色と緑色の二ひきのかえるが畑の真ん中で出会い、お互いの体の色が汚いとののしり合っているうちに喧嘩(けんか)となりました。片方のかえるが飛びかかれば、もう片方のかえるは砂をかける。そんな激しい喧嘩をしているうち、いつの間にか季節は冬を迎えました。かえるたちは冬眠せねばならず、喧嘩の続きは春を迎えた時にまた再開しようということで、それぞれ眠りに入ります。

やがて春が来て冬眠から目覚めた二ひきのかえるは、まず目覚ましのために池に飛び込みました。池の水で体の汚れた泥を洗い落として、改めてお互いに向かい合ってみると、それぞれ色の違うきれいなかえるということに気がつきました。二ひきのかえるは喧嘩をしていたことも忘れ、お互いをほめ合って仲良しになりました。」

冬が近づき冬眠直前の心身ともに疲れたかえるたちは喧嘩もするが、お互い休養をとりリフレッシュをすることですがすがしい気分になれば、それまでお互いが欠点と見えていたものも美点に変わるほど、世界観が変わることがあるということを新美南吉は伝えたかったのでしょう。

ごく表面的には、たわいもない子どもじみたお話と感じられます。しかし、幼い子どもへの読み聞かせには、かえってこの程度の単純なお話の方が向いているのではないかとも思われます。この大賞を受賞した「二ひきのかえる」は安城市が責任をもって印刷製本し、初めて本を目にする赤ちゃんへの読み聞かせ絵本として、乳児をお持ちのご両親に配布してゆく予定です。

こうした赤ちゃんへの読み聞かせを推進する事業はブックスタート事業と呼ばれ、近年全国的な取り組みが始められています。

来年8月から始まる、保健センターでのブックスタート

【来年8月から始まる、保健センターでのブックスタート】

ところで、この童話の意味するところをあれこれ想像し、かえるを現代人に置き換えて読めば、別の意味でとても示唆に富むお話という見方もできます。

「高度情報化の時代にあっては、さまざまな情報に翻弄(ほんろう)される中、スピード感のある判断や結論を求められるが、即断即決で下した判断が必ずしも正しいとはいえないようなことがある。少し間合いを置いてリフレッシュを図れば、もっと別のよい考えがでてくるのではないか。」

以上のような読み替えも興味深いものがありますが、大正時代から昭和初期に生きた新美南吉です。果たしてこんな現代の情報化社会を見通せたのでしょうか。とてもそうとは思えません。

では、昭和の歴史に残る童話作家と高く評価される新美南吉は、本当にただ単に子ども向けのたわいもないおとぎ話として「二ひきのかえる」を創作したのでしょうか。それとももっと深く考えるところがあったのでしょうか。そんな疑問を覚え、この童話の発表年次を調べてみて、あることに気がつきました。

この「二ひきのかえる」が世に発表されたのは、昭和16年から17年とされています。当時の世相は、太平洋戦争の勃発に向けて大変きな臭いものに変わりつつあり、昭和16年の暮れにはついに緒戦となる真珠湾攻撃が起きています。

紙すら不足がちになった危機的な社会の中で、南吉がのんきに単なるおとぎ話を創作したとは考えにくく、例えばこの二ひきの色違いのかえるの片方を当時の日本国民とし、またもう一方を日本と対立関係にあった連合国側の国民に置き換えてみると、話のイメージはどうかわるのでしょう。

「肌や髪の色の違いを理由にいがみ合い戦闘するのではなく、双方が頭を冷やし落ち着いて話し合いの場を持てば、見方によってはそれぞれ個性のある美しい人類同士ということに気づけるのではないか」

南吉は暗に、以上のようなメッセージを日本社会に伝えたかったのではないかとも思えます。日本が国を挙げて、まっしぐらに戦闘態勢へ進むことへ警鐘を鳴らすとともに、国際和平を希求することの意義を伝えようとしたのではないでしょうか。

当時は軍事政権下にあり、しかも多くの日本国民は「神風神話」により日本に負け戦はないとする好戦的な世論が支配していた時代です。言論統制のあった時代、露骨に不戦や和平を訴えることはできなかったものの、当時すでに全国的な知名度のあった童話作家としてのせめてもの良心として、可能な限りの表現で自らの思いを広く婉曲に国民に伝えたいという意志が込められていたのではと見るのは、私の深読みのし過ぎなのでしょうか。

今日、日本と近隣諸国との領土問題により、またもや一触即発を心配するきな臭い空気が漂う世相となりました。この南吉童話の「二ひきのかえる」が、不戦や国際平和への思いを伝えようとした巧みな比喩であれば、なんと時宜にかなった童話作品が大賞に選ばれたことかと感じられます。

童話「二ひきのかえる」を広く多くの人々に読んでいただき、南吉生誕百年を機に改めて童話作家・新美南吉が希求した理想社会を、皆さんとともに実現したいと考えます。

表彰式は来年1月19日(土曜日)に昭林公民館にて開催予定で、入選作品の全35点も同時に展示されます。多くの皆さんのご来場を期待しています。

                                                                                                                                                                 安城市長 神谷 学

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