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更新日:2013年6月20日

夏の税論議に思う

日々の新聞・テレビを見ていて、不思議に思える2つのニュースがあります。税制を巡る議論のことです。名古屋市では市民税10%減税の是非が議論されていますが、一方、国政では消費税を10%に引き上げる議論でにぎやかになり始めました。おそらく多くの市民の皆さんも、戸惑われていることでしょう。

私にはこうした議論の断片的な情報しかありませんが、現段階での見解をまとめてみました。

市民税10%減税

ニュースなどで名古屋市長の「減税が景気回復につながる」旨の発言を耳にしました。この根拠はどこにあるのだろうかと、私なりに調べてみました。

過去の歴史を見ますと、戦前のドイツでは、国家と地方合わせて1割程度の減税を行っていたことが分かりました。この時期は世界恐慌の只中にあり、ドイツ国内でも緊急の失業対策が求められていました。そこで国を挙げての総合的な減税策が講じられたのですが、この減税は低所得者に手厚い恩恵が及ぶ設計とされ、富裕層や企業にはむしろ増税が図られました。

その結果、すそ野の広い低所得層の人々が生活必需品を買えるようになり、消費が増え景気は回復に向かったとされています。分かりやすく図式化すれば、「減税する→国民が潤う→景気の回復→税の支払い増加→税収の増加」という形になるそうです。(武田知弘氏著「ヒトラーの経済政策」より)

戦前のドイツの10%減税と、名古屋市が行っている10%減税の大きな違いは、国家の政策として取り組まれているかどうかにあると考えます。国策であれば法律改正が図られることで、効果的な制度の組み合わせが可能になります。しかし、一地方都市の挑戦では現行法の制約が立ちはだかり、自由な制度設計ができないという現実に直面せざるを得ないようです。

名古屋市の場合は、現行の税制度での減税を実施したため、すべての納税者への一律10%減税となり、高額納税者への減税額は大きいものの、低所得者へは恩恵が及びにくいという結果になりつつあるようです。

名古屋市内では、公園やガード下に多くのホームレスを見かけます。あの人たちに減税の恩恵は及ぶのだろうか。減税の穴埋めとして極端な行革が断行されれば、社会のセーフティーネットが損なわれることはないのだろうかなど、いろいろな懸念が残されています。

消費税10%への引き上げ

国民の支払う税がうまく生かされ、理想的な社会保障が実現している国として、例に挙げられるのがデンマークなどの北欧諸国でしょう。手厚い福祉や医療はよく紹介されますが、意外に見落とされているのは、こうした社会保障が充実した国ではそれなりに国民の税負担が高いということです。日本では消費税5%の妥当性について論議が始まりましたが、北欧諸国の消費税はおおむね25%、その他の欧米先進諸国では、20%前後となっています。

北欧の子どもたち

 

低負担で質の高い福祉サービスが受けられればありがたいのですが、日本の福祉現場では低賃金を理由とする離職が多く、計画通りのサービス提供ができない福祉施設もあると聞きます。また急速に進む高齢化に伴い、福祉関連の予算は伸び続けています。少子化と経済の停滞により、かつてのように若い勤労者の負担で社会を支えてゆくのは困難になってきました。

すでに一足早く高齢化社会に入った先進諸国をモデルとし、国の税収を安定的に確保するため、諸外国より低い消費税率の論議が始められようとしているのでしょう。

税論議の前に、行政改革を進めるべきとの意見は理解できます。もちろん時代とともに変えてゆくべき仕組みは、変えてゆかねばなりません。しかし、日本の経済にかつてほどの勢いはなくなりつつあると感じます。今後、劇的な経済の再生が実現しない限り、社会保障を考えればいずれ何らかの負担引き上げは不可避と思われます。

ギリシャのように、累積赤字による国家の財政破綻が現実のものとなり、国民生活に大きな負の影響が及ぶことを案じます。一つの自治体の財政破綻なら、隣の都市に移り住むという選択肢もあるのでしょうが、国家の財政破綻の場合は簡単に隣国に移住するという訳には行きません。

国の負債は、そこに暮らす国民が返してゆく宿命にあります。それを今の大人が真剣になって考えるのか、次世代に先送りするのかが問われています。今の若者たちは、未来への大きな夢を持てないようです。いつまでも問題の先送りをする時間的な余裕はなくなっているのではないでしょうか。

財政危機を克服した国

今から12年前、私は市議会議員としてニュージーランド(以下NZ)に出かけ、血のにじむような行財政改革の実情を調査させていただきました。

NZはもともとイギリスを宗主国とし、戦後はイギリスに向けての農産物輸出で貿易立国として豊かさを誇っていました。しかし1970年代にイギリスがECに加盟したことで、頼りとする貿易相手国を失い、加えて2度のオイルショックを経て、NZ国家は財政破綻寸前に追い込まれました。

農家の破産、自殺者の急増、年30%近いインフレと国民生活は極度に悪化し、国民の間には「豊かだった時代の社会システムを変えなければ、我々も国も破滅するしかない」との強い危機意識が生まれたそうです。世界に例を見ないような強力な行政改革が断行できたのは、カリスマ性のある政治家が突如出現した訳ではありませんでした。こうした個々の国民の危機意識が政治を変え、それが社会を変える原動力になったとお聞きしました。

そのNZの税法の改正点は、主に次の3つでした。(1)所得税を引き下げ、累進を緩やかにする。(2)法人税を引き下げる。(3)消費税(税率12.5%)を創設する。労働者の可処分所得を増やして消費を活性化すると同時に、資産家や企業が海外に流出するのを防ぎ、その上で消費税からの収入を柱に財政の再建に取り組むという考え方でした。税制による飴と鞭を巧みに使い分け、NZは財政再建に成功しました。

さて、日本の日常生活はスーパーの特売やガソリンの価格変化に関心が集まり、国の税制論議に関しては、とかく消費税率のみに関心が向かいがちです。しかし、単なる消費税の上げ下げが政治や行政の目的ではありません。税には必要とする財源調達の役割と、所得の再配分の機能があります。大切なのは、政治がそうした税の機能をどう生かして、どんな社会を目指そうとするのかという点に集約されるでしょう。国家の財政状況、国民生活や意識、社会の仕組みなど、税制のあり方はその国の実態に合った形で議論されるべきです。

安城市の財政は現在のところ健全性が確保されていますが、国や県の財政逼迫(ひっぱく)が市の財政へのしわ寄せとなる懸念があります。いよいよ夏の参議院議員選挙が始まります。投票日の7月11日まで、各政党と候補者の政見に耳を傾けたいと思います。 

 安城市長 神谷 学

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