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更新日:2013年6月20日

COP10への期待

この秋、愛知県でCOP10という国際会議が開催されることは、多くの皆さんすでにご存知のことでしょう。この会議ではテーマとして「生物の多様性」が取り上げられ、私たち人類が、いかに多くの生き物たちと多様性を保ちながら生きてゆけるかが、地球レベルの課題として議論されます。

国際的な会議となると、私たちは外国からどんな話題が提供されるのかが気になります。でも、今回のCOP10は日本が開催国なのです。よって、わが国の気候に即した生活、四季をめでる精神文化を、私たちから紹介する情報発信も重要なのではないかと思っています。

 

日本に古来より伝わる精神文化の原点といえば、神道ということになるのでしょうか。哲学者の梅原猛氏は日本の神道について、著書「あの世と日本人」で、「神道は、明治以後、ひどく国家主義化しましたが、本来は自然崇拝です。神社には必ず森がある。そして神社には必ず神の使いをする動物がいる。これはもともと森が、あるいは木が神であり、動物が神であった、そういう名残ではないかと思います。」と述べておられます。

私は神道について格別に深い知識はありませんが、身近にあるいくつかの神社を思い浮かべますと、例えば山岳そのものをご神体とする白山神社、神渡りで知られる湖の神を祀る諏訪神社、あるいは知恵の働く狐を神格化した稲荷神社など、梅原氏の自然崇拝説にはうなずけるものがあります。

日本の神さまたちについては「八百万(やおよろず)の神々」という表現を耳にしますが、私たち日本人は自然の神秘的な力に神性を見て、畏敬しつつ心のよりどころとしてきたのではないでしょうか。

 

日本の歴史を振り返ると、土着の信仰である神道の後、6世紀には仏教が伝来します。仏教は本来インドで生まれた外来の宗教なのですが、中国から朝鮮半島を経由し日本に伝わると、土着信仰と融合する形で独特の世界観を帯びてゆきます。日本仏教には「山川草木 悉有仏性(しつうぶっしょう)」という独特の思想があります。平たく言えば「山や川、草や木も、ことごとく仏になる性質を持つ」という意味で、この世の中にある森羅万象の中に仏の可能性を見出そうとするものです。石の中に仏性を見出そうとした人は石仏を彫り、木の中の仏性を見出そうとした人は木造の仏像を作ったのでしょう。

このように日本人の習俗や思想の原点には、自然やその中に潜む精霊への崇拝があるように思われます。日本はその地勢や気象の関係から、身近な自然から海の幸・山の幸などの食材を容易に入手できる恩恵に浴する一方で、地震や津波、台風や洪水など自然の恐怖とも向かい合わねばなりませんでした。人智、人力を超える大自然の働きに逆らうのでなく、いかに自然を崇(あが)め、その猛威を鎮(しず)めてもらうかに細心の配慮をしてきたということなのでしょう。

不乗森神社の湯立神事

 

ところが明治以降、私たち日本人は産業革命に端を発する西洋諸国の技術や知識を習得し、人間は化石燃料と機械を活用することにより驚異的な力を持ち得ることを知りました。戦後の高度経済成長期には、いくつもの山を削り、海を埋め立ててきました。あの時代、人間は科学技術により自然を超克でき、開発により豊かで明るい国土が形成できると、一途に信じていたのではなかったでしょうか。また多くの発展途上国も、かつての日本の経済成長と同様の軌跡をたどろうとしています。そうした世界的な開発や資源獲得の競争が、地球環境を破壊し、生物の多様性を喪失させてしまいつつあります。

だからといって近代文明になじんだ私たちが、いきなり原始の生活に戻ることはできないと思います。しかし、古(いにしえ)の素朴な思想や文化・生活習慣を単なる時代錯誤とあざ笑うのでなく、迷信を排した科学的な視点からそれらの意義を考え、評価すべき側面はきちっと再評価すべきでしょう。

私たちの祖先はかつて、身近な自然環境といかに折り合いをつけるかに気を配りながら生活を続けてきました。そんな人間の暮らしと大自然の循環との折り合いをつけた象徴的な空間が、里山であったり、水田だったのではないでしょうか。今でも残る里山や水田地帯には、土中に微生物や小動物が潜み、それを求めて鳥や獣がやって来ます。多様な生物が共存しつつ、人間にも動植物にも命の糧を与えてくれる素朴な環境が、かつての日本のありふれた風景だったのです。

 

「時代遅れ」、あるいは「経済的な価値がない」と目されている昔ながらの風景が、こんな身勝手な人間を今なお温かく包み込んでくれているという気がしてなりません。COP10を契機に、まずは私たち自身がこうした身近な「無用の用」のもつ意味を再認識し、日本の伝統的な知恵を世界に向けて伝えられたらと期待しています。

 安城市長 神谷 学

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