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更新日:2013年6月20日

経済危機と文化の秋

百年に一度といわれる経済危機の中、米国のグリーン・ニューディール政策に倣(なら)って、日本国内でも環境政策に関心が高まりつつあります。このグリーン・ニューディールのお手本とされたのは、80年前の世界恐慌時に米国で断行された「新たな(経済の)巻き直し」を意味する「ニューディール政策」です。

私自身、ニューディール政策については、代表的な事業であるT.V.A(テネシー川流域開発)を例に学校で教わったイメージが強く、大がかりな公共建設投資が進められたという印象を持っていました。

しかし、現実のニューディール政策は大型建設投資などの社会基盤整備と併せて、産業全般にわたる生産調整と賃金・価格調整など、ソフト的な分野も含む総合的な経済対策だったようです。最近になり、芸術・文化振興の分野にまでこの総合経済対策の配慮が及んでいたことを知り、改めてニューディール政策のすそ野の広さに驚かされました。

80年前の米国では、失業率が25%に達するような状況であったと言われています。ちなみに日本の失業率は9月末現在で5.3%。隔世の感はありますが、いかに当時の米国の世情が深刻なものであったかがうかがえます。人々は日々の暮らしに精一杯、国民全体の生活に余裕はなくなり、中でも芸術家の生活は困窮を極めてしまったようです。

そこで優れた芸術家の支援と国民の精神の鼓舞を願い、恐慌下の1935年に「連邦美術計画」が立てられました。当時の主要都市にシンボル的な公共施設を建設し、その建築物には芸術性の優れた装飾を施すこととされ、芸術家らに活躍の場が与えられたのです。このように芸術を通じて、米国民の精神復興が図られたという話を聞いたことがあります。

 

こうしたニューディール政策にまつわる話を知り、思い起こされたのは安城市内の文化活動の歴史です。現在の安城文化協会は終戦の翌年、昭和21年4月29日に愛知県下2番目の文化団体として誕生しています。当時がどんな世相であったのかは、新編「安城市史」の生家が商店を営む一人の女子中学生の夏休み絵日記から読み取れます。昭和22年の安城のようすが綴られています。

(原文のまま)

「買出しについて」8月18日月曜日(晴曇)

朝早くから買出し達はやって来る。ただ、買出し買出しと、ばかにしているが考えているとかわいそうである。田舎の者はいくら食糧不足だと言っても、まだ少しはぜいたくな事もいっておられるが、町の人達は、本当に、ゆづうがつかなくて、十里も十五里もある都市の方から知らない村をたづねて、物をわけて貰って行く。八月十五を始として貿易が許可された。これで少しは、食糧も豊になり、かわいそうな人も少なくなるであらう。

和歌:かわいそう 食糧不足の町の人 袋かついで田舎たずねり

 

昭和22年で上記のような社会情勢です。この前年の昭和21年が、さらに深刻な時代であったということは容易に想像がつきます。そんな食うや食わずの時代、新たに文化活動を興すことを通じて人々の精神とまちの復興を願われた方々、そしてそれに賛同し運動を広げてゆかれた方々の精神の気高さに頭の下がる思いがします。

「安城市史」には、「世の人を戦争ボケから目をさまさせなければいけない」と文化協会創立発起人の意気込みが記されています。

安祥文化のさとまつりの様子

 

国では新しい日本の方向性を探る「事業仕分け」という作業が進められています。行政が進めている事業に無駄があれば、それをなくしてゆくことは当然のことでしょうが、何が無駄なのかの見極め基準をどこに置くのかは非常に難しい問題です。厳しい社会情勢の中で、信じられないような悲惨な事件や事故が、新聞やテレビを賑わせています。長引く経済低迷による人々の精神の貧困化という、経済学の物差しのなじまない問題にどう対応してゆくのかが問われます。

実利主義や合理主義だけでは真の豊かさを手に入れることはできないと考えた80年前のニューディール政策、60年前に安城文化を立ち上げられた先人たちの志に、ふと思いを馳せてしまいます。苦しい困難な時代だからこそ、我慢してでも頑張らねばならないものは何か。また、今しばらくはあきらめなければならないものは何なのか。

それらを検討する前に、そもそもどんな社会を目指そうとしているのかを明確にしておく必要があります。目指すべき社会像に向かう延長線上で、真に必要とされるものは残し、控えるべきと目されるものはしばらく辛抱をするということでしょう。

よって国と地方とを問わず、政治にはその目指すべき社会像を描くための創造力、さらにそれをことばとして説明してゆく表現力が求められているのではないかと感じます。政治家にこそ、芸術・文化的なセンスが求められている時代なのではないか。そう考えさせられる文化の秋を過ごしました。

 安城市長 神谷 学

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