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更新日:2013年6月20日

核廃絶への祈り 

64年前の昭和20年8月6日午前8時15分、戦争史上初の原子爆弾が広島の町に投下されました。被爆をした方の数は30万人を超し、この年末までに亡くなられた死者数だけでも14万人を数えると言われています。もう、これ以上の悲劇を繰り返したくない。広島・長崎への原爆投下の日には、毎年多くの国民が祈り続けてきました。しかし、今年の広島・長崎原爆の日には、例年以上の核廃絶への強い祈りを捧げる日本国民が多いのではないかと考えました。

この春、アジアの近隣国でミサイルや地下核実験が強行されたのは、まだ記憶に新しいところです。世界唯一の被爆国に住む一人として何らかの形で、核廃絶の意思表示をしたい。私だけでなく多くの市民もそう願っているのではないかと思われましたが、具体的な行動として何ができるのか見出せないでいました。

そんな時、5月のサイクリング・ツアーでお会いしたデンマークのメルビン駐日大使が、核拡散抗議の富士登山を計画されていることを、マスコミ報道により知りました。広島に原爆が投下をされたその日時に、日本の象徴である富士山から祈りを捧げ、核拡散に対する抗議の意思表示をするという内容でした。

この夏の富士山は気象が不安定で、すでに落石や登山中の遭難事故も報道されていました。平和祈念登山の意義は認めるものの、悪天候の可能性を考えると極度の疲労や事故の危険もあり、正直のところ躊躇してしまいました。しかし、メルビン大使は強い使命感をお持ちになっておられ、気象状況の如何に関わらず不退転の決意で富士登山に臨まれるとのご意志を伝え聞き、自らの臆病を恥じました。

私も世界平和の一助となりたい。そんな思いで7月下旬、急きょ富士登山への参加を決断しました。

 

8月5日の夜、東京のデンマーク大使館に集合し、大使を中心とする私たち同志20名程がバスで富士山麓に向かいました。河口湖5合目で、現地に直行された方々数名と合流し、午後11時半、ヘッドランプの光を頼りにいよいよ深夜の富士登山が始まりました。天気は下り坂と聞いてはいたものの事前に心配したほどでもなく、雲間に月や星が見え隠れする穏やかな空。黙々と行列は進み6合目を過ぎましたが、7合目に差しかかる頃、グループ内から体調不良による落伍者が出てしまいました。落伍した方の下山の手配が終わると、予定よりやや遅れて再びの出発となりました。

日の出までは、晴天への期待もあったのですが、残念ながらご来光を確認することができないまま、明け方からは濃霧の中の山行に転じました。周囲の景色が見えないため、自分の位置も分からないままの登高でしたが、9合目を過ぎると意外にあっけなく頂上へ到着できました。私にとってはやや拍子抜けの感がした、初めての富士山登頂でした。

参加者一人ひとりに体力の差はありましたが、午前6時半頃には、グループ全員が登頂を果たせました。山頂小屋で朝ごはんを食べて体調を整えた6日午前8時頃、全員で火口近くに立ち、静かに祈りの時を待ちました。霧はいよいよ濃さを増し、拭いても拭いてもカメラに水滴が付着するというじっとりした嫌な空気の中、山頂で1分おきに時刻を告げる声が響き始めました。そして、祈りの合図となる「午前8時15分」と告げる声がしたその瞬間、不思議な現象が起きました。

濃霧が急に切れ、強烈な朝日が祈る私たちを照らし出したのです。黙祷のために目を閉じても、明るい陽光は網膜で感じられます。静寂の1分間、色々なことが脳裏をよぎりました。私が生まれる以前に原爆で亡くなった見ず知らずの多くの方々のこと、そして今もなお、地球上に原子爆弾の開発をしている人たちがいること等々。あれこれ思いを巡らせるうち、自らの目がしらが熱くなるのを感じました。

不意の落涙は、世の不条理への悲しさなのか、無事登頂の達成感か、それとも神秘的な光の中にいる感激だったのか・・・。初めて経験する不思議な感動でした。

富士山頂で祈りを捧げる

 

地方政治の末席を汚す者として、平和を願う18万市民の意志を行動で示すことができたことに、大きな満足感を覚えました。行動を共にしてくださったのは20人近い日本人の他、大使を始めとするデンマーク王国やリトアニア共和国の方々でした。言語や生い立ち、宗教は違っても、1つの願いの下に行動や感動を共有できるということを確認できました。

この登山を通じてメルビン・デンマーク大使に、安城市での来春のご講演をお願いしました。核廃絶への願い、そして今年末にコペンハーゲン市で開催される国際環境会議COP15の議論、さらに来秋に愛知県で開催されるCOP10に向けての心構えなど、貴重なお話をお聞きできるものと期待をしています。安城市にとっても、私にとっても、大変に有意義な平和祈念の登山となりました。

 安城市長 神谷 学

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