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更新日:2017年11月24日

今月のメッセージ

ドイツと日本 働き方と豊かさを考える 

最近、1冊の本を読みました。「5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人(著者 熊谷 徹 氏)」というやや変わったタイトルです。

昨年の10月、岡山市で開催された全国都市問題会議で、ドイツ文学者であられ、旅のエッセイストとして知られる池内紀(おさむ)さんの「まちの見方、見つけ方」というテーマの基調講演を拝聴しました。お話の中で、ドイツ人には法律で年間1か月のバカンスをとることが義務化されており、最低1か月は自己解放を図ることが必要と認められているとお聞きしました。

私には二人の娘がいますが、上の娘はドイツ人青年と結婚し、現在はドイツで生活をしています。また、下の娘は日本の青年と結婚しており、わが家の近くで暮らしています。二人の娘婿(むこ)を通じて、お国柄による仕事ぶりとライフスタイルの違いを知り、特に日本とドイツのワーク・ライフ・バランスの落差に驚くことが多いのですが、その違いがどこから生じているのかが、私にはまだ十分理解できていません。

そんな折、書店にてたまたま冒頭の文庫本を見かけ、疑問解決のつもりで購入しざっと読んでみました。もちろん、これまでの両国の歴史的な経緯や国民の意識や人生観の違いがあり、またそれにともなう労働に関する法律も異なるため、どちらがいいとか悪いとかを簡単に結論づけることはできません。

しかし、少子化対策、男女共同参画、そして今後の日本のワーク・ライフ・バランスなどを考えた時、ドイツ人の働き方と余裕のある生活を参考にすべきではないかと思われましたので、2人の娘たちから見聞きしたことや、本を読んで分かったことをここにまとめてみることとしました。以下、プライバシーの関係がありますので、架空のドイツ人青年のD君と、日本人青年のN君の例として紹介してゆきたいと思います。

1、5時から生活の差

D君は現在、主にEU圏域を主な市場とするインターネット通販会社に勤務し、社員の能力開発の仕事をしています。一方のN君は、この地域で自動車関連のものづくり現場で頑張っています。年齢はともに30歳前後の同年代ですが、大きく異なるのはそれぞれの帰宅時間です。

D君は本のタイトル通り、夕方5時には帰宅しているそうです。「5時に帰るドイツ人」は決して誇張ではなく、彼らのありのままの現実のようです。通勤は車で片道30分かかるようなので、5時に帰宅しているということは、午後4時半頃には帰宅の途についているということになります。

家路を急ぐ人々(平日夕方)

【家路を急ぐ人々(平日夕方)】

一方、N君はものづくり現場での仕事ということもあり、定期的に夜勤もありますが、日勤の週でも帰宅は午後9時頃、職場にトラブルなどがあれば10時ということもあるようです。通勤時間は30分弱です。仕事に誇りを持っているものの、D君の生活のようすを聞くと、N君の暮らしを気の毒に思うことがあります。日本は男女共同参画に関して、国際的にかなり遅れているとの評価です。だからこそその改善を図ろうと、本市ではさまざまな啓発活動を展開しているのですが、D君とN君の就労環境を比較すれば、ドイツ人男性は生活時間に余裕があり、家庭での男女共同参画を実現させやすいと思われます。

安城市役所の様子

【日本の就労環境(安城市役所内)】

実際D君は帰宅後、食後の食器洗い、室内掃除など、いろいろな面で家事のお手伝いをしているようです。だからと言って日本のN君を責める気にはなりません。夜遅くまで仕事に従事し疲れ果てて帰宅した後、さらに家事の手伝いを求めれば、明日の仕事に差し支えが出てしまう可能が大です。

さらに、娘らの出産に対する対応にも大きな違いが見られます。N君は娘の出産当日、1日のみ有給休暇をとることができましたが、D君は当日から2週間の育休を与えてもらえる見込みのようです。ドイツの方が夫婦で子育てをしやすい環境にあるといえます。この本によれば、ドイツ人の年平均労働時間は1,371時間に対して、日本人は1,719時間なのだそうです。

2、時短で高給取りの不思議

こうした勤務時間の大きな差により、日本人の平均所得が多く、ドイツ人の平均所得はさほどでもないというのなら納得がゆくのですが、現実はどうやらその逆のようで、私にはそれが不思議でなりません。

OECD加盟国の「国民1人当たりGDP」という数値は、それぞれの国民の裕福度を図るものさしとされています。この2016年版によれば、ドイツの486万円/年に対して、日本は451万円/年とされており、時間に余裕を持って暮らしているドイツ人の方が、より多くの富を生み出しているということになります。これらも加味した労働生産性から見た場合、ドイツが日本を46%も上回っていることになるのだそうです。

ドイツ人と日本人の労働時間で見れば、明らかに日本の方が勤勉なのですが、どうして年間に生産された富としては逆転してしまうのかが腑に落ちず、日本人の私としてはいささか悔しい思いをしています。

カフェでスポーツTVの観戦(平日夕方)

【カフェでスポーツTVの観戦(平日夕方)】

3、働き過ぎ禁止の法律

ドイツには長時間労働を禁じる法律があり、1日当たりの上限を10時間とされているそうです。また6カ月の平均労働時間は1日8時間以下にせねばならないとされてもおり、一部の職種を除いて例外はないとのことです。ドイツの娘は薬局で事務仕事をしているのですが、時々働き過ぎを調整するため自宅待機を命じられると言っていました。おそらくこうした法で定められた労働時間の枠に収めるための就労調整をさせられているのでしょう。さらにドイツには「閉店法」という法律があり、労働者保護のために小売店の日曜・祝日の営業を原則禁止しているそうです。ただし、駅・空港・ガソリンスタンド、一部のパン屋を除きます。

「そういえば…」と思い出すのは、ドイツに暮らす娘が、ドイツには24時間営業のコンビニなどはないと話してくれたことがあり、びっくりした記憶があります。「不便ではないか」と聞いたのですが、「最初はそう感じたけど慣れればなんともなくなった」とのことでした。また多くのお店が日曜日に休みますが、金曜日などに多めの買い物をしておけば問題はないとのことでした。今になって思えば、午後5時に帰宅できる生活なら、それから買い物に出かけることも十分可能と気がつきました。

品揃え豊富なマーケット

【品揃え豊富なマーケット】

以上の就労に関する法的規制が、各職場で守られているかどうかは、事業所監督局がかなり厳しく監視しており、抜き打ち検査も行われているそうです。基準を超える長時間労働の事実が見つかった場合は、最高180万円の罰金を科せられることがあり、しかも企業によっては会社のお金で払うのではなく、残業を命じた管理職にポケットマネーで支払わせるケースもあるとのこと。

これほどの罰金を科せられ、しかも人事評価まで下げられることになるのなら、無理な残業を強いる上司はいなくなるでしょう。また管理職の立場にある人たちは、常に部下の働き過ぎをチェックし、過労が判明した場合は娘のように自宅待機を命じられ、時間調整を図ることになるのでしょう。娘から聞いた話では、自宅待機の時間に対しても給料は支給されるとのことでした。それなら休まされる側も家計を心配することなく休養をとることができます。

4、リフレッシュが生む活力

またドイツでは、有給休暇が年最低24日と法律で義務付けられているものの、多くの企業は30日を認めており、この有給休暇を100%消化することや、2~3週間のまとまった長期休暇をとることが当然の権利として認められ、実行されているそうです。ちなみに日本では、法定の最低有給休暇日数は10日しかないにもかかわらず、取得率は50%ほどしかないとのことです。

ドイツの娘夫婦は夏休みや年末には、イタリア、フランス、スペイン、イギリスなど、いつも国外旅行に出かけているようで、話を聞くだけで本当にうらやましくなります。こうした法により休みがとりやすいということだったのですが、私はいつも旅費について疑問を感じていました。「そんなにあちこち出かけてお金が足りるのか?」と尋ねたところ、「EU圏内なら航空料金はだいたい5千円くらいでどこでも行けるよ」との答えが帰ってきたのに、またもや驚きました。

休日のまちのにぎわい

【休日のまちのにぎわい】

職場で調整を図りつつ全員が分散して休暇をとるため、それに応じた安価な移動手段や宿泊施設が整っているということなのでしょうか。多くの人が交代で休暇を楽しむため、EU圏内では長期にわたる人の大移動が続き、交通や観光サービス、さらに飲食や物販と、すそ野の広い産業が活況を呈しているのではないかと想像します。

好況に沸いたバブル期の日本では、「忙しくてお金を使う暇がない」という笑い話のような嘆きを耳にしたことがあります。日本を訪問する外国人は年々増加しているようですが、肝心の日本人の国内観光は増加している訳ではないようです。働く時はしっかり働くべきですが、休むべき時は適度な休みをとり、たまにはおしゃれな宿に泊まりおいしいものを食べ、バラエティーに富んだ特産品を買いたいものです。

日本人の消費意欲が盛り上がらないという報道を目にしますが、平均的な家庭ではもはや家電や家具、車など物品の不足はなくなっており、人々の関心は体験やサービスの消費へと向かっているのではないでしょうか。日本国民が旅行に出かけられる回数が増えれば、宿泊や食事、そして特産品などの消費は活性化するのではないかと思われます。日本人のライフスタイルをそんな方向に変えてゆくことが、真の地方創生につながるような気がします。

5、ドイツ流仕事の工夫

・富を得る工夫

ドイツの製造業の興味深い話として、「下請け」という共通認識がないことが本に挙げられていました。取引形態からすれば日本でいう下請けであっても、中小企業は大手企業と同じ目線で仕事をしているとありました。ドイツの中小企業には、消費者やマスコミに名を知られていなくとも、特殊な機械や部品などのニッチ(すき間)市場では50%以上ものシェアを持つ企業が多いのだそうです。

特に半製品や特殊部品などがニッチ分野に強く、歯車、小型モーター、コネクター、パッキングなど、多くの企業が必要とする部品に特化する企業が多いと記されていました。しかもドイツの中小企業は、日本の中小企業と比べると、国際的なマーケティング力が強いようです。国外の見本市やインターネット取引を通じて、国際市場へ積極的に進出しており、それによって国内メーカーへの依存度が下がるために下請けという認識がなくなるということです。

ベンツ車の工場出荷(平日早朝)

【ベンツ車の工場出荷(平日早朝)】

ドイツの中小企業は全企業362万社の99.6%を占め、従業員数は全雇用者数の約60%。全ドイツ企業の売り上げの35%ほどを占めるに過ぎませんが、生み出す付加価値(収益)では55%と、中小企業が非常に高付加価値の収益性の高い仕事をしていることがうかがえます。また研究開発に多額の費用を注ぎ込み、特許の取得に熱心で他社がまねできない製品を提供する差別化戦略によって、低価格化競争に巻き込まれることを防いでいるようです。

またドイツの政治家にとって、雇用者の過半数が働く中小企業は大きな票田であり、ほとんどの政治家が中小企業の支援を打ち出し、技術開発プロジェクトへの低利融資などに力が入れられているそうです。

・時間を生む工夫

午後5時には家に帰る、そして年1か月の有給休暇を楽しむ。ドイツ人はそんなライフスタイルを維持するために、おそらく常に合理的かつ効率的に仕事を考えているのでしょう。

職場で1人の担当者が長期休暇をとっている間、その人の業務が停滞しないように、普段から業務を職場で共有化しておくという事例が紹介されていました。これは、社内のITシステムに課の全員がアクセスできる共有ファイルを設けることにより、担当者が休暇中でも、同僚が書類などを調べて顧客の問い合わせに迅速に対応するため工夫のようです。もちろん個人情報の守秘義務は守られるという前提の話です。

その他にも、安城市役所の中で試してみたくなるような、いくつかのドイツ流の仕事のコツが挙げられていました。もちろんそれらの全てをいきなり実践につなげることは無理があるのかも知れませんが、検討の余地はあると感じました。

 日本の執務風景(安城市役所内)

【日本の執務風景(安城市役所内)】

市長の私が、たまたま1冊の本を読んで感じるものがあったというだけで、安城市内の雇用環境や市民生活が劇的に変わるとは思えません。しかし、ドイツに暮らす娘夫婦のライフスタイルを身近な参考事例として、日本人としての仕事の効率化やゆとりの生活を考えてみなければならないと思いました。

働くことは悪と言いたい訳では決してありませんが、働いて働いて働き過ぎたことによって、却(かえ)って生活の余裕や家族の絆を失いかねないとするなら、何のための勤勉な日々なのでしょうか。また個々人がリフレッシュを図れないため、創造力を働かせることができない状態に置かれているとするなら、その組織の飛躍的な発展は望めないとも思われます。

最近は日本でもワーク・ライフ・バランスが喧伝されるようになりました。人口減少、そして少子高齢化が進む社会にあって、性別を問わず社会参画でき、充実した仕事により家庭に余裕が生まれ、真に豊かな暮らしの実現につなげてゆく、そんなよき日本流のライフスタイルを創りあげねばなりません。その環境整備のために何が必要なのかをいろいろ考えさせられました。

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